道徳心
最近、「ナショナルジオグラフック」という番組で、「脳トリック」というのを見ました。とても興味深かったのですが、ちょうど機会があって、よそのお寺のお施餓鬼会でお話させていただいたので、紹介しつつ「お施餓鬼とは」をあらためて考えることになりました。
脳の不思議を徹底分析!
今回も数々の面白いゲームと各分野の専門家の解説を通して、脳の仕組みを解き明かしていく。常識は、いつも私たちを正しい判断に導いてくれるのか? 右脳派は創造的で、左脳派は論理的という説は本当なのか? 科学で説明できない超常現象が見えるのは脳の働きのせい? 番組の楽しいゲームに挑戦して、無限の可能性を秘めた、あなたの脳を刺激しよう!
脳トリック(シーズン5)
特に今回使ったのは、「モラル」という回。非常に面白く興味深かったので、AI画像生成も交えながら説明します。
モラル、その脆さ
多くの人が行き交う街中で、
おばあさんが倒れました。するとなんと、(アメリカでの実験のようです)五秒以内には、誰かが助けようという行動をはじめるのだそうです。なんと高い道徳心でしょうか!捨てたもんじゃありません。
そして次に、実験ではおばあさんが倒れるのですが、手に何か持っています。
ビールだ!その時、周囲の人は…15分たっても、誰も助けようとしませんでした(くどいですがアメリカでの実験です)。みなさんはどうされますか?少なくとも「何も持っていない時」よりは躊躇するのではないでしょうか?今こうやってブログを書いている私でさえ、きっと助けないだろうな、と思います。
なぜか?「自業自得だ、この人はビールなんか飲んで、勝手に酔っ払って勝手に転んだのだ」と判断してしまうんですね、「おばあさんが転んでいる」という場面は同じなのに。
私たちは、平時に「困っている人がいたら、助けよう」と思っているはずです。試しに質問すれば、まず多くの方がそう答えるでしょう。しかし、それ実は条件付きである…!ということを、ナショナルジオグラフィックは示したのですね。
施餓鬼会に寄せて
さあ、ここからが坊さんとしての面目です。令和4年のお施餓鬼会で、あるいはその他の回でも「お施餓鬼とは」というストーリーの解説は、お聞きになったことのある方、あるかと思います。
お釈迦様の弟子の阿難尊者が托鉢をしていると、急に餓鬼が現れて、「お前の命はあと3日だ」と告げる。驚いた尊者はお釈迦様に教えを乞い、陀羅尼を授けていただいた。そのことで餓鬼に供養することができ、尊者の命も伸びた。
救抜焔口餓鬼陀羅尼経
私自身、この話は何度となく目にしていたのですが、上記のテレビを見て、フッと気づいてしまったのです。「餓鬼が倒れていたら、みんなどうするのだろうか?」と。
こちらには、確かに現世に餓鬼が出てきている様子が描かれています。そして、説明によれば「卒塔婆にかけた水だけは飲むことができる」そうです。一番右手の餓鬼も物欲しそうにしていますが、人間たちはお構いなし、見えないんだか無視されているようです。そう!「酒飲んで転んだ」どころではないのです、餓鬼になっているということは。餓鬼になるほど酷いことをして、いま現にそうなっているのです!
そうだとすると、先ほどの餓鬼が「お前の命は…」とか言うのも何だか理解できるのです。「腹が減っているんです。何か食べ物かお水をください」というのが餓鬼の本当に言いたいことなのでしょうけれど、そんなこと言っても誰も相手にしてくれない。だから大袈裟なことを言って、脅かして、なんとか解決してもらおうとする…切ないですね、何だか共感しちゃう。「お水をくれたらお金をあげます」とか、見返りになるものだって持ってやいない。
そんな存在である餓鬼を供養しよう、お釈迦様に倣って施しをしよう。それが「お施餓鬼」なのです。
これはね、ありがたいことだと思うのです。さらにその功徳を、自分たちが受け取るのではなくご先祖様のご供養に振り向ける。ココがまた一段、ありがたいことです。私たちが普段気づかないうちに縛られているモラルとか価値観から離れ、「自業自得だとしても、苦しんでいるんだったら施しをしましょう」「自分に見返りを望むのではなく、自分のご先祖さまに振り向けましょう」。そういう行事なのです。